PR

安倍政権のインバウンド政策には外国人観光客の「顔がない」のか

安倍政権のインバウンド政策には外国人観光客の「顔がない」のか 社会・文化・政治

私は個人的には、今のインバウンド観光の政策に反対だし、移民政策にも反対だ。

外国人の友人が多いので、さらにそのように考えている。

今回のこの記事に関しては、このように感じている1読者が思ったところをざっくりと書いて見たい。

 

当該記事の筆者は、安倍政権がひたすら数字ばかりを追い、日本へ来る外国人観光客がどういった人たちなのか、顔を見ていないと評している。

 

安倍首相の数値目標達成に達する並々ならぬ意欲がにじみ出ている。他方で、関係閣僚は安倍首相に対するイエスマンを貫き、自身がトップを務める省庁の管轄で成果を上げることで目標実現に貢献する姿勢をアピールしたと推測できる発言を行っている。

 

分かりやすく説明するためにスーパーマーケットの経営にたとえるならば、好調な売上に気をよくしたワンマン社長が突如野心的な売上目標を掲げ、役員会議で披露したところ拍手喝さいを浴びた。しかしターゲットとする肝心の顧客層に関しては「潜在的に近隣に多く居住していそうな、これまで当店と付き合いのなかった住民」といった極めて曖昧なイメージしか共有されなかった。

こういう表現には、不必要で主観的な悪意を感じる。

 

安倍首相が「ワンマンである」(独裁的である)ことを前提にしている上

  1. 潜在的に(見えないけれど)
  2. 居住していそうな(よく調べてないが)
  3. 当店と付き合いのなかった住民(なぜ付き合いが無かったかは触れていない)

と「まるで当てずっぽうで、その場で思い立った政策を行なおうとしている」と思わせる表現を使っている。

 

近隣、つまりアジア周辺国、たとえば韓国や台湾などからの訪日観光客はずっと以前から増えていたし、また、中国人観光客も、各種の規制を緩和するたびに増加していた。

アジアの特定の国々には確実に多くの顧客がいるのは分っていた。(顕在化していた)

 

また、「付き合いがなかった」と言うより、「付き合いを断っていた」国々にも比較的容易に観光ビザを発給することで、その他、多くのアジアの地域から観光客が増えるのも織り込み済みだった。

 

もちろん、アジアのめざましい経済発展で、タイやインドネシアなど、各地で中間層やそれに準じた経済的な余裕をもった層が急激に増えたのは、多少想定以上としても、すでにはっきりとしていた。

 

賛否はあるだろうが、政治主導で、「まずアジア周辺国家の観光客を取り込む」というのは、ごく自然な判断だと思われる。

政治主導という点において、安倍首相ほど精力的に陣頭指揮をとってきた首相は戦後には珍しい。

 

その中にあって、今日までの閣僚たちが「イエスマン」以上の仕事が出来ない人材ばかりという人事なのは残念だ。

また、その多くが、往々にして安倍政権の足を引っ張っているのは周知の事実だろう。

 

しかし外国人観光客1人当たりの旅行支出に目を向ければ、1位はオーストラリアの242,041円、2位がスペインの237,234円、3位が中国の224,870円、4位がイタリアの223,555円、5位が220,929円と、アジア勢を押しのけて欧米諸国が上位をほぼ独占しているのである。国別で2位の韓国は地理的に我が国と非常に近いこともあり、1人当たりの旅行支出は78,084円、平均宿泊日数は4.4日であり、共に最下位であった。

さらに記事は、欧米の観光客との単価の話を出して、どうして単価の高い欧米人観光客を増やさないのかと批判する。

しかし、これは「客層」「客質」の問題であって、欧米人観光客を単純に増やせば、自然と平均単価も下がっていく。

日本マニアや熱烈なファンから、たまたま日本を選んだ「一般人観光客」に層が広がれば消費の動向も変る。

 

さらに、中国や韓国といった訪日観光客全体の中で大きなシェアを占める国々は、手軽で安価に旅行が出来るような仕組み作りも進んでいるので、単価も安くなっている。

そしてもちろん、欧米人観光客が大幅に増えれば、欧米人向け観光旅行でも同様の現象が起きるだろう。つまり単価の下落だ。

 

厳密な意味で本来の「富裕層」を念頭に置くなら、「快適で満足度が高い旅行体験を十二分に提供すべき」だが、記事内では富裕層はその意味では使われていないように思われる。

 

しかし宿泊費は必然的に宿泊日数が多くなる欧米豪で圧倒的に高くなる傾向が見られる。1人当たりの宿泊費の1位はイギリス(100,691円)で、2位はオーストラリア(99,175円)、さらに3位はスペイン(92,543円)であった。また4位はイタリア(87,652円)で、5位はフランス(85,554円)、6位はドイツ(84,555円)であり7位はアメリカ(82,286円)であったのであり、上位を欧米諸国が独占した。

 

宿泊費も欧米人観光客が高い、ゆえにそっちを取り込めという事だろう。

これも今来ている欧米人観光客をよく観察すればわかる。

 

彼らをいくつかのグループに分けたとき、そのうちのある程度のグループに共通するのが、「経済的に余裕があって」、「比較的長期間滞在する」からだ。

たとえば、家族グループや、ヲタクグループ、老夫婦グループなどがこれに入る。

 

ところが、外国人観光客の増加が、はじめて話題になり始めた頃のことを覚えている方なら、分ると思うが、欧米人観光客のうち、特に若者は裕福と呼べるほどお金をもっていない。

その一方で、日本で最大限の体験を積みたいと思うから、多くがバックパッカーとして日本を訪れていた。

長期間日本に滞在したいが、「滞在コストを1日いくらまで削れるか?」が彼らのテーマだったし、今でもそうだ。

 

私の友人でも欧米人はどうしても長期滞在を希望する。

わざわざ10時間以上も飛行機で、高いチケットで来るのである。当然だ。

 

が、韓国や中国、台湾などはどうか?

2,3時間程度で来ることも出来て、しかも信じられないくらい安いチケットも出回っている。

 

気軽に何度でも来ることができ、これが容易な「近場の海外旅行」として、リピーターを作っている。

こうしたリピーターは、一生に1回しか来ない人も多い欧米人観光客に比べて、LTVとしての宿泊費が安いだろうか。

 

欧米の観光客が宿泊先に求める「スタンダード」と我が国が良かれと思って提供する「おもてなし」の間に、知らず知らずのうちにギャップが生じている危険性である。今回の場合も、高級旅館と夫婦の双方に非はなく、単なるミスマッチングであったと言える。

ミスマッチングは当然あるだろう。

 

これだけインターネットが発達し、日本の情報が英語をはじめ各国語で得られるときに、伝統的な「おもてなし」重視の京都の高級旅館を選ぶという間違いはありうる

 

しかし、マッチングに関しては、情報の収集と整理・蓄積、各種情報サービスのUIの激しい改善が続く中で、どんどんとミスマッチが減っていくと思われる。

 

そういう中で、「ウリ」となるものを先鋭的に極めていくことは、観光業では非常に重要になるだろう。

それが伝統的な京都のおもてなしであることもある。

現に私の欧米人の知人は、まさしくこうした日本的なるものを求めて日本に来ている

 

現在の日本政府の観光政策には反対だが、ちょっと気になった点を書いてみた。

欧米人といっても、多様な属性に分れる。

割愛するが、富裕層の割合が特別に高いと言うことも無いと思う。

 

また、量が流入すれば、全体の質は下がる傾向が起きるので、単価も同様に下がり、思ったような効果を得られないだろう。

 

質の低下は、日本の治安やインフラの管理コストも上げるし、観光地やその他の保護にもさらに費用がかかるようになる。

質の低い観光客があふれかえると、本来の日本の製造業や農業、サービス業といった各種の産業への負担増もあるだろう。

すでにそのような兆候は一部欧米人らの動きから、一般の国民にも見えている。

 

「日本の観光業をどうしたいか?」は、「日本の姿をどうしたいか」ともつながる大きな問題だ。

ぜひ、国民のもっと盛んな議論を望みたい。

 

もし、理想の観光業のイメージが出来たなら、観光客の属性は、地域別・国別はもちろん、年齢、性別、興味、宗教、目的、経済力、帯同人数など、多くの変数を確認した上で、組み合わせと分類を正確に行い、それぞれに適した配慮と、また、逆に「ご遠慮願う」対策も考えられるべきだろう。

 

writer: 羽家吾穂

タイトルとURLをコピーしました