東京医科大学が入学試験で女性を差別し、女子学生の合格者を減らしていたというニュースが出てから、しばらくして、多浪生(多年受験生)も同じように差別してたと報道され始めた。
要は、女性や多浪生を差別し、入学試験に不利に扱う事は「不正」であり「差別」であり、是正しないといけないという指摘であり、政府の見解もこれに沿ったもののようだ。
しかし、医学部受験を考えたことのある人や、或いは、大学や大学院を終えた後に、医学を志し、医学部再受験を考えたことのある人なら、ほぼ全員知っているかと思うが、年齢制限に関してはおおよそ全ての医学部、医科大学で行われてきた。
実際に、筆者の記憶では、群馬大学医学部で不合格になった受験生が、大学側から「年齢が不合格の原因」と言われたとして、訴訟になったケースがあった。
それくらい年齢差別に関しては該当する受験生は神経質になっているし、「年齢制限が弱い医学部、医科大学はどこか?」は常に話題になっている。
医学部の定員は100人+α程度に設定されている上、今のような厳しい経済状態、産業構造の激変の中では、医学部入学は恐ろしく激しい競争になっている。
現役の高校生の中には、もとより医師や医学に興味がなくとも、親の薦めもあって「食いっぱぐれのない医学部」を選ぶものもいるだろう。
また、いったんは他の学部を卒業したり、他の専攻で学位を取ったものの、社会に出て、生き抜く厳しさを知り、より良い生活やステータス、経済的な安定などを求めて医師を目指そうと考える人も多いかと思う。
医学部で年齢差別をやめたらどうなるのか
もし年齢制限を「不正」とするなら、全ての国公立、および私立の医学部、医科大学は、おおぴらに年齢をもって合否を決することは出来なくなる。
さすがにペーパー試験の点数だけで決める事はないが、
- 筆記試験で相当程度に良い点がとれている
- 面接等の適正検査で明かな問題はなかった
場合に、高齢の受験生を切ることは難しいくなるだろう。
こうした高齢の受験生が「公正な入学試験」が開始されると聞いて押し寄せないとも限らない。
いや、むしろ殺到する可能性もある。
世界的な上場企業ですら倒産し、大量にリストラし、外国企業に合併され、早期退職を要求し、賃金を上げない時代だ。
医師の恵まれた環境は、そうしたせっぱつまった人たちには輝いて見える。
もちろん、医療の現場はブラックと言っても良いくらい厳しい状況かも知れないし、無理無体が通る理不尽な世界かも知れない。
医師や医療者は「そんなに良い仕事じゃない!」と否定するかも知れない。
では、彼らの子ども達が「医師になりたい」と言ったときに、どれくらいが否定し、別の道を勧めるだろうか。
来春はまだ大きな変化は出ないかも知れない。
しかし、今現在、年齢差別を気にしつつも、医学部受験のために必死で努力している多くの高齢受験生にとっては朗報であろう。
例年になく多くの受験生が合格通知を受け取るかも知れない。
また、この方針が既定路線となれば、今後の医学部生の大きな割合が、20代、30代以上になるだろう。
その準備は、決して、各医学部や医科大学だけがするものではない。
「日本の医療制度をどうするか」という根本問題を国民一人一人が考え、決断していく国家の1大案件である。
更新:2018/11/17
AJMC 一般社団法人 全国医学部長病院長会議は「浪人の年数や年齢で評価に差を付けることも不適切と判断した」と発表しました。
ただしレガシー枠は温存。「親が医療人であれば医師になるのをやめにくく愛校心が強い」?と。
医学部入試の性差別、許さない 学部長らの会議が規範(朝日新聞)
writer: 羽家吾穂